沖縄国際大学では、1年、或いは半年の期間、本学教員を国内外の大学・研究施設へ派遣する「国内・国外研究員制度」があります。2003年度は、国外研究員として総合文化学部の金城守教授が、2003年4月からの1年間、英国・ロンドン大学で調査研究を行いました。また、国内研究員として総合文化学部の追立祐嗣教授が、2003年4月からの1年間、京都の立命館大学で研究テーマに関する調査や資料収集を行いました。今回、そのお二人に1年間に及ぶ国内外での研究生活を振り返っていただきました。
ロンドン大学での1年間

大学院生のメッサムさん(写真左側)と共に
 研修先のユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(略UCL)には、高知大学・大学院教授の谷口雅基先生にジョン・ウェルズ(John Wells)先生【言語・音声学部】を紹介していただき、先生を指導教官として、2003年4月にロンドンへと出発した。UCLの言語・音声学部(特に英語音声学)は、多くの留学事典が世界最高の水準との評価を与えている。ウェルズ先生はLongman Pronunciation Dictionaryの著者で、当学部における権威の中でも随一の先生である。
 UCLはロンドン大学を構成する一校で、学生数は3万人弱、留学生数は140ヶ国から約5千名となっている。その創立は1826年で、イングランドで3番目に古く、ロンドンにできた最初の大学である。当時、宗教・人種・性別等による差別なく、学生を受け入れたのはUCLが最初であった。その開かれた学風の恩恵に浴した日本人には、幕末に藩命により長州から5名、 薩摩から16名、また明治初期に遣欧の使者としての留学生がいた。伊藤博文(初代総理大臣)、森有礼(同文部大臣)、井上馨(同外務大臣)のような人物、その他である。明治も後期になると、夏目漱石が2年程、UCLで学んでいる。UCLは、社会的評価と同様、その学問的業績も高く、ノーベル賞の受賞者数が、日本の12名に対し、大学一校で18名を数えている。
 UCLはロンドンの中心部にあり、大英博物館が徒歩で5分ほど、その他の美術館・博物館・劇場・映画館が徒歩で行ける距離に目白押しである。こういう歴史的背景と学問的環境を反映した教授陣の講義を受け、授業形態等を観察し、学生たちと話し、町の集会・クラブ等に参加できたことは幸いであった。また、博士課程で英語のリズムと気圧の関係を研究・実験しているメッサム(Pirs Messum)さんには、その実験をとおして多くのことを教えてもらった。週2回程、約半年間、ドロタ(Dorota Glowacka)さんに発音指導・矯正のため、お世話になった。それから、よしなり・ふじのさんとは、パブでよく激論を交わし、楽しかった。
 振り返ると、懐かしい顔、顔、顔、ロンドンの町並み、地下鉄の駅、パブの喧騒、静かな公園、小公園、また、クラス風景等が走馬灯のように蘇る。沖国大の学生達に英語を教えていて、今では、その一つ一つ、又は、その全てが有益な財産となっ ていると感じる。
立命館大学での研修を終えて

「黒人研究の会2月例会」での発表風景。
右は指導教授の加藤恒彦先生。この時は「激しい論争」はなく、平穏無事に発表を終えることができた。
 2003年4月より2004年3月までの一年間、京都の立命館大学・国際関係学部にて加藤恒彦教授のご指導の下、「黒人女性作家の研究」をテーマに研修を行った。
 加藤先生とは、7〜8年前に東京の学会で初めてお目にかかり、当時、事務局長をなさっていた「黒人研究の会」に早速入会した。この会は実に不思議な学会で、全国大会の懇親会で私は常に酔っ払ってしまうのである。勿論、他の学会ではあり得ないことであり、この会の「居心地の良さ」を端的に表していると思う。今回は、全国大会をはじめ、毎月行われる例会に全て参加し、2度の発表を行った。例会では、この会のもう一つの顔が現れる。すなわち、黒人文学の専門家の集団が発表・出席する場では、歯に衣着せぬ批判・論争などが繰り広げられるのである。7月に私が発表した際も、出席者の9割から私の論の核心部分に対する反論が浴びせられた。司会の加藤先生も私の論には批判的であった。しかし、私も最後まで譲らず反論し、その後、数ヶ月の熟考の末、論旨を変えず論文として発表した。
 神戸市外国語大学を発祥の地とする「黒人研究の会」は、その後も立命館大学など、関西を中心に活動してきた。会員は、例会での激しい論争にも見られるように、自らの主張を曲げず、傍から見ていると、まるで喧嘩をしているかのように見えたりもする。しかし、その後は、何事もなかったかのように、仲が良いのである。私の友人は、関西人は「引き」が良いと言う。根に持たないのである。私はそんな関西の人々が好きだ。今回の研修での最大の成果は、一年間、関西の「仲間」と親しくお付き合いができたことである。最後に、この場をお借りして、貴重な機会を与えて頂いた皆様に心より感謝の意を表したい。

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