沖縄国際大学 平成16年度 点検・評価報告書

本   章


第1章 理念・目的・教育目標

 第1節 大学の理念・目的
 第2節 学部の理念・目的・教育目標
  (1)法学部  (2)商経学部  (3)総合文化学部
 第3節 大学院研究科の理念・目的・教育目標
  (1)地域文化研究科  (2)地域産業研究科  (3)法学研究科


 
第1節 大学の理念・目的 
(1) 理念・目的等
 本学の設立までの背景には、異民族支配下という困難な状況下でいかにして住民の手で地域振興や人材育成を達成できるかという切実な思いがあった。それは本学の設立趣意書にみることができる。同趣意書は本学に特別な意味を込めて「沖縄における私立大学」とくり返し強調した上で、その歴史的使命を「真の自由と自治の執拗な追求」としている。本学は設立の原点に戻り、これを建学の精神としている。この精神に支えられた地域振興と人材育成は学部及び大学院の教育目標をなしている。
 ただ日本復帰という大きな「世替わり」の激動の中、また既存の二私立大学を統合しての慌ただしい誕生とあって、学則上の大学の目的はともかく、新大学の理念がそれほど意識されていなかったとみてよい。その後昭和62年に当時の高宮廣衞学長が「地域に根ざし世界に開かれた大学」を使いだしてから、これが自然に本学のキャッチフレーズをなしてきた。これが全学的に見直しされたのは後述するように創立31年目であるが、新理念は次のようになっている。

 「沖縄国際大学は、沖縄の伝統文化と自然を大切にし、人類の平和と共生を支える学術文化を創造する。そして豊かな心で個性に富む人間を育み、地域の自立と国際社会の発展に寄与する。」

 これをキーワードで示せば、平和・共生、個性・創造、自立・発展に集約されよう。平和・共生の思想は沖縄の歴史体験から、個性・創造の発想は教育の原則から、自立・発展の視点はローカルとグローバルの双方向性を要請する時代精神からそれぞれ構築されているとみてよい。

(2) 理念に沿った教育・人材育成の適切性
 地域密着型の本学の理念は、共通教育科目と専門教育科目に盛り込まれている。たとえば、沖縄の伝統文化は共通教育科目群の中の「沖縄関係科目群」、平和・共生は「テーマ科目群」、学術文化は各学科の専門科目群、個性的あるいは創造的な人間の育成は主として演習、教育の総決算としての地域自立と国際社会の発展への寄与は、卒業後の就職や社会活動をとおして期待されている。

(3) 理念・目的・教育目標の達成状況
 卒業生は県内地方自治体、教育機関、民間会社に就職して地域振興に寄与している。とりわけ小中高の教員の場合、毎年の沖縄県教員採用試験の合格者のうち本学の卒業生及び卒業見込みのものが全体の30%を占めている。各自治体における福祉、歴史・文化、生涯教育、その他の行政分野での卒業生の活躍は衆目が一致している。

(4) 理念・目的・教育目標の検証システム

 理念・目的・教育目標も当然時代や社会環境の変化に合わせて評価の対象となる。本学は全学的な組織である自己点検・評価委員会で新しい理念の策定を決定し、その下部組織である学部等委員会に原案作成を諮問し、その答申を受けて他の下部組織である大学院等委員会、事務組織等委員会を含め各学部教授会での検討をくり返して約2年がかりで確定した。全学的に理念確定ができた意義は大きい。
 教育内容の検証は自己点検・評価委員会の審議範囲内にあるが、平成3年の大学設置基準の大綱化を機に大がかりな見直しをして以来、まだ組織的な検討には入っていないものの、定期的に各学科のカリキュラムを見直すことは困難なことではない。




第2節 学部の理念・目的・教育目標
(1) 法学部
【現 状】
 沖縄国際大学法学部は、沖縄県のみならず、南西諸島唯一の法学部として、1972年の本学創立時に設立された学部であり、これまで幾多の課題に直面している沖縄県の司法、行政、社会の発展にとって有用な人材を養成するため、法学教育・研究の水準向上に努めてきた。
 アメリカ軍統治下にあった沖縄県の本土復帰に伴う行政事務の需要増、また日本国憲法を頂点とする日本法の全面的適用への対応からも、法学部は、1学部1学科の設立当初より、講義を一部と二部の学生に提供し、弁護士、司法書士など法律専門家を養成する学部であり、また公務員や企業で働く法的思考ができるゼネラリストを養成する学部でもあるという、二つの性格をもっていた。
 法学部法学科は、平成10年度から法律コースと行政コースの二つの履修上のコースを設けてきたが、地方分権、情報化社会という時代の潮流、司法制度の改革、離島の多い沖縄における行政の重要性、少子高齢化社会及び生涯学習社会の到来、二部法学科志願者の減少などを考慮し、2002(平成14)年にそれまでの志願者の多かった行政コース(平成12年度の場合、法律コースよりも一部で2〜4倍、二部で4〜8倍多い)を学科として独立させ、従来の法学科を改める形で地域行政学科を増設し、法律学科を発足させた。また同年より二部の募集を停止した。
 現在の法学部は、2学科を擁しているが、どちらの学科を卒業しても「法学士」の学位を授与している。これは、法学部の教育目標が、単なる法律の条文や判例・学説等の理解や、法律知識や法技術の習得にとどまるものではなく、法の背後にある立法事実、歴史的考察、及び外国法等との比較を通して正義・衡平感覚を養い、さらに法に関する政策の立案、調整、決定、実行、評価等の能力を修得し、リーガル・マインドを身につけた有為な人材の養成にあるからである。
 法律学科では、法の基本的な理念や考え方をふまえながら、個別の法律や法制度全体を体系的に理解した上で、将来、弁護士、司法書士、税理士、企業法務担当者などの高度専門職業人をめざす人材を養成する。また21世紀の社会を担うのは、実務法曹や企業法務を志向しうる専門知識の担い手だけでなく、国民主権を担う法的素養を備えた「市民」であることから、法文を読んだりその内容を調べたり、法律的素養を生かして生活できる健全な市民の養成も重要な教育目標にしている。
 地域行政学科では、地方分権化、情報化等の変化する地域の多様な行政需要に即して、総合的・法律的見地から、地域の課題を発見しその解決にふさわしい地域社会の法に関わる政策の立案、調整、決定、実行、評価の各能力を備えた人材を育成し、地域のリーダー、自治体やNGO・NPOの職員、市町村会議員などの輩出を目標としている。
 法学部における平成14年の「地域行政学科」の増設は、沖縄という「地域に根ざし世界に開かれた大学」づくりを目指す本学の建学の精神に適うものである。地方分権が叫ばれていながら、沖縄においては人材不足のため、自治体の条例を自分たちで作ろうにも作れないという「自治の根幹」に関わる課題がある。地方分権の推進に伴い、地域の実状に対応した行政の展開がこれまで以上に求められること(地方自治体の自己決定・自己責任及び説明責任は著しく拡大する)に鑑み、沖縄県の基地問題、雇用問題、島嶼性、県外への経済依存度の高さ、市町村合併などの諸問題に対処するためには、国主導の施策だけでは不十分であり、沖縄自らの自主的・主体的な努力を通した自立を考える必要がある。そのためにも地域における主体的な政策立案、調整、決定、実施、評価能力を発揮しうる人材の育成が不可欠であると、地域行政学科は考える。また、このような人材の育成にあたっては、沖縄の地理的特性、つまり「アジア太平洋地域のなかの沖縄」という視点をもつことも大切である。「地域行政学科」は、沖縄の地域性を考慮した行政の在り方、また多様な「地域」研究を十分に修得した上で、地域の行政・ビジネス活動に大きく貢献できる人材の育成を教育目標にしている。

【点検・評価】
 沖縄国際大学法学部の掲げる現在の理念・教育目標は、学校教育法第52条、大学設置基準第19条の精神に照らし、法学部の理念・教育目標として、妥当と考える。
 法学部法学科の時代を含めて三十有余年、法律学科は、本県の政治・経済の発展に大きく貢献したものと評価でき、今日では、本県において活躍する公務員、教員、会社役員等の経済人、及び市町村会議員の多数を輩出するに至っている。この意味において、法学部の理念・目的・教育目標は、有効かつ順調に達成されつつあるものと判断できるであろう。

【改善・改革方策】
 わが国における司法制度の改革とそれに伴う法曹養成システムの改革により、2004(平成16)年度から県内の他大学において法科大学院が開設される予定である。法科大学院を持たない法学部は、入学志願者数が減少し、従来の法学教育を維持できなくなる危険性が指摘されており、また教員の他府県の大学への流出も懸念されるところである。将来予測されるこのような危機を乗り切るため、法学部は、2003(平成15)年度に発足した大学院法学研究科及び平成9年に発足した沖縄法政研究所と密接かつ有機的な関係を維持・強化することにより、学部の理念・教育目標を実際の法学教育に反映し、沖縄を中心とする南西諸島等の地域社会における各界の指導者を輩出するべく、今後も法学教育の一層の充実・強化に取り組んでいく。



(2) 商経学部
【現 状】
 本学の建学理念を、経済学及び商学の分野で具現化することが、本学部の理念である。
 具体的には、地理的・歴史的・文化的特質を有する沖縄県の経済発展に人材育成の面から寄与することを目的として、@社会性や公共性及び国際性の視野から経済学・商学に関する基礎理論の修得とその応用・実践能力を付与すること、そしてA地域を越えて国際的に進展する環境変化のメカニズムを探求し、変化の方向性を洞察して、創造的に問題を解決する能力を付与することを教育目標の主柱としている。さらに、情報化・国際化が急速に進展する中、卒業生が21世紀型人材として地域経済社会において中核的な役割が果たせるよう、経済学や商学に関わる基礎理論やその実践応用能力だけではなく情報処理能力やコミュニケーション能力をも併せ持った人材の育成に努めているところである。
 本学部は、経済学科と商学科の2学科で構成されている。上述した本学部の教育目標を上位目標として、両学科それぞれの学術領域に応じて、次のとおり個別に下位目標を掲げている。
 経済学科の目標は、経済学に関する高い見識と深い専門的知識を持ち、経済社会の変化に対応し、洞察力を持って主体的に行動し、地域社会の発展を担える人材を育成することであり、商学科の目標は、商学に関する高い見識と深い専門的知識を持ち、21世紀の企業活動を理論的かつ実践的にトータルでリードし得る人材を育成することとしている。
 また、経済学及び商学ともその学術領域は広く4年間で全ての科目を学習すること極めて困難であるとの認識に立ち、本学部では、上述の目標を達成するため学生に学習目的を主体的に自覚させるとともに体系的かつ効果的に自らのニーズに合った学習深化が図れるようコース制を模した科目履修方法を導入している。

【点検・評価】
 沖縄県は、他地域に比して、企業規模の零細性、若年者層の高失業率、そして、大学進学率の低さ、さらには、島嶼性や大都市圏からの遠隔性などから生じる日常的な人的交流基盤の脆弱性など、地域固有の課題に直面している。このような地域固有の課題を生活レベルで体得しつつ、なおかつ、あるべき地域の将来像を発想するとともに、その将来像の実現に向けて具体的かつ実践的に活動できる人材こそは、県内産業の自律的な発展にとって、必要不可欠の人的資源である。従って、知識の深化だけではなく実践応用能力の錬磨にも焦点を据えて地域の発展にとって有用な人材を養成しようとする本学部の教育目標は、地域の社会的ニーズに合致していると認識している。
 また、コース制を模した科目履修方法を導入していることにより、いたずらに総花的な知識の付与を行うことによって表層的かつ硬直的な人材を育成することを回避し、深い専門性と独創性を有する人材の育成に貢献し得るものと認識しており、経済界が求める多様で自律的な人材に対するニーズに応えることが可能となっていると判断している。
 なお、本学部は、少子高齢化、情報化、国際化・グローバル化等の社会経済情勢の地球規模的な構造的変化が進行している中、人材育成に関わる社会的要請に従前にも増して積極的に応える観点から、2004年4月より、従来のコース制を模した科目履修方法を発展的に整備・拡充し、経済学部と産業情報学部の2学部に改組する計画である。従って、本学部としての学生募集は2003年度までで停止される。

【改善・改革方策】
 上述のとおり、本学部は、2004年4月より、経済学部と産業情報学部の2学部に改組する計画であり、本学部としての学生募集は2004年度以降行わないことを前提に、改組設置される2学部が掲げる理念・目的・教育目標について列記し、改善・改革方策に代える。
@ 経済学部
 21世紀の高度化・複雑化する国際社会において、地域が持続的に発展していくためには、必要とされる基礎的能力を修得させ、多様性に富んだ個性豊かな自立した人材を養成することが重要である。このような認識に立って、本学の建学精神である「真の自由と自治の確立」に基づき学問の府としての大学の尊厳を維持しつつ、「人間性が豊かで創造性に富み、地域の自立と社会の発展に寄与する高度の知識・見識を身につけた人材」の育成を教育の理念とし、「知」の世紀の拠点を目指した人材育成を進める。
 具体的には、経済学や地域経済政策、環境政策を一体的に捉え、官公庁及び民間企業或いは各種団体・組織において指導的な役割を果たし得る将来のリーダー養成に努めることを目的とする。このため学問体系の基礎を習得させると共に具体的な施策の企画や立案、そして実施に至るプロセスや施策の評価能力を錬磨し、地域の自立と国際社会の発展に寄与する人材の養成を図る。
A 産業情報学部
 本学の理念を構成する基本概念である「平和・共生、個性・創造、自立・発展」に基づき、個性と創造性の尊重、自律的学習態度の育成と倫理観等人間性教育の重視、基礎理論・基本技術の重視とそれに基づく専門教育・研究の高度化、地域に対する認識の深化と国際性の涵養を教育の理念とし、地域の自立や国際社会の発展に寄与し得る人材の育成を行うことを目的とする。
 具体的には、産業社会の情報化や国際化等の環境の変化に対応し得るよう、幅広い視野に立って柔軟かつ総合的な判断を下すことのできる課題探求型能力、基礎理論の体系的修得に基づく論理的・体系的思考能力、新たな知識創造能力、情報処理技術を用いた高度な情報活用能力等の陶冶を通じて、地域産業分野を活性化し、または創造できる情報化人材の育成や企業経営における高度な経営情報分析能力、国際的ビジネス感覚等を持ったビジネスの専門家を養成する。


(3) 総合文化学部
【現 状】
 総合文化学部の前身は、文学部である。1972年の開学から2000年までの約30年間、文学部は国文学科、英文学科、社会学科の3学科によって構成される文科系総合学部として、教育と研究に努力してきた。本学の「設立趣意書」に示されているように、本学は沖縄の歴史的、社会的課題を背負いつつ、「沖縄における私立大学」としての独自性の主張をもち、戦前及び戦後の高等教育における沖縄の格差是正に努めてきた。その中で、文学部は、とくに地域の要請に応えるために沖縄の文化・社会に対する研究と教育を重視し、地域に根ざした教育と研究をもとに、世界に開かれた教育を目指すことを学部の理念・目的としてきた。
 21世紀を迎え、国際化、高度情報化、少子高齢化という社会構造の大きな変化に対応すべく、学部改革が行なわれた。学部改革検討委員会が、1999年7月16日に教授会に提出して承認された改革答申の中で、新学部の理念は次のように述べられている。「新学部は、人間と、人間が生み出した文化に対して、知的興味と洞察力を抱きつづけることの出来る人間を育てることを、基本的な教育理念としている。人間と文化に対する深い洞察と知識を求める姿勢は、普遍的な知的社会人の要件ではあるが、科学技術文明が高度に発展した現代においては、その科学技術に振り回されることなく自律的に生きて行く為にも、その必要性がよりいっそう増していると言えるであろう」。
 以上の理念をもとに、2001年度から文学部を総合文化学部と名称変更し、従来の3学科は日本文化学科、英米言語文化学科、社会文化学科とそれぞれ名称変更し、新たに人間福祉学科を新設した。総合文化学部は、上述した現代社会の抱える諸問題を克服しつつ、豊かで活力ある地域社会の実現を目指し、現代社会に対応した4つの学科から構成される、まさに文科系の総合学部として新たなスタートを切った。
 総合文化学部の教育目標は、教育理念を具体化する内容として、「高度情報化に伴なうテクノロジーの発達、国際化による人・物・情報の交流、少子高齢化による社会構造の変化、物質文明の発展とは裏腹な自然環境の破壊など、大きな社会的変化と課題に直面している現代社会に対応する能力を育て、新たな社会を創造していく問題解決能力を持った人材の育成」と定められている。さらに、その内容を具体化して、5つの項目を立てている。@文化情報を収集活用する情報教育の重視、A国際文化を理解するための外国語教育の重視、B新時代の市民文化を創造するボランティア教育の重視、C地域文化の理解を促進する沖縄・アジアの地域教育の重視、D少人数制の演習を活用した問題解決型の人材教育の重視、である。この学部教育目標は、各学科の特徴を生かして、それを学部全体に普遍していく意図をもっている。すなわち、@の情報教育は、日本文化学科の文化情報コースの特徴であり、Aの外国語教育は英米言語文化学科の特徴、Bのボランティア教育は人間福祉学科の特徴、Cの沖縄・アジア研究の重視は社会文化学科の特徴であり、それぞれの特徴を相互に関連させて、学部全体の特徴へと止揚させていくことを目指している。そして、Dの少人数教育は、学生と教員がお互いに信頼関係を持って教育の場を形成することが教育の基本であるという学部共通の認識に基づいて設定された教育目標となっている。
 総合文化学部の下に4つの学科があり、それぞれの理念・目標は、以下のとおりである。
 日本文化学科は、日本文化及び琉球文化研究をベースにして、現代社会の国際化・情報化に対応する人材育成を教育目標としている。
 英米言語文化学科は、従来の英文学科の理念である、「国際語としての英語と国際感覚を身につけ、グローバルな視野を持ち、人類の平和と地球環境の保全のために積極的に貢献する教養豊かな国際人の育成」をそのまま引き継いでいる。
 社会文化学科は、南島地域研究を中軸に、東アジア・東南アジアなどの周辺地域をも視野に入れた比較文化的観点から、社会・文化のみならず、平和・環境・ジェンダーというグローバルな問題を考える、問題解決型の人材を養成することを教育目標としている。
 人間福祉学科の教育理念は、豊かな人間性と21世紀の高度化かつ多様化する国際社会において必要とされる基礎的技能を修得させ、社会福祉実習を基礎に現場を重視した実践教育を通して、福祉・医療・保健の各分野で中堅として活躍できる人材を養成することを目的とし、同時に心理カウンセリングの専門分野と連動させたカリキュラムによって、より深い見識と広い視野を身につけ人間福祉全般に関わる諸問題に効果的に対応し、地域及び国際的な福祉社会の構築に貢献できるような専門的人材を養成することである。

【点検・評価】
 総合文化学部の理念・目標は、30年の文学部の歴史を基礎にしつつ、新たな時代に対応する人材の育成を謳っている。2001年度に学部改組してまだ3年であり、現状としては学部理念に基づく教育内容の充実に努力しているところである。
 具体的な教育目標について、@の情報教育については、全学的な情報リテラシー教育のほかに、専門教育の中での取り組みが学科によってばらつきがある。日本文化学科の文化情報コースは、学科に専用のコンピュータ室を整備してデータベース作成などに活用されている。また、LL教室にCALLシステムが2003年10月から導入されるので英米言語文化学科での情報教育の発展が期待される。Aの外国語教育については、従来の全学平準化された語学教育ではなく、学科別、能力別に教育内容を検討する必要がある。また、Bのボランティア教育については、人間福祉学科を中心に構想されており、近い将来にボランティア・センターを設立する予定である。Cの沖縄地域研究及び沖縄を中心としたアジア研究は、本学部のみならず本学の特徴の一つである。沖縄・アジアに関する科目は、社会文化学科の教員を中心として多くの全学共通科目を提供している。Dの少人数演習教育は、各学科とも1年次から4年次まで各学年に開設されており、演習を中心とした専門教育のみならず、アカデミック・アドバイザーとして演習担当教員の機能を学生指導の中心に位置づけることによって、教育上の成果をあげていると思われる。

【改善・改革方策】
 学部の教育目標が具体的に設定されているのに対し、教育理念は抽象度が高く、両者の整合性に開きがある。今後、学部の中で教育理念に対する検討を行う場を設定する。

 




第3節 大学院研究科の理念・目的・教育目標
(1) 地域文化研究科
【現 状】
 地域・人間・国際社会の協調を骨格とする本学の理念である、「沖縄の伝統文化と自然を大切にし、人類の平和と共生を支える学術文化を創造する。そして、豊かな心で個性に富む人間を育み、地域の自立と国際社会の発展に寄与する。」を踏まえ、本大学院は「広い視野に立って精深な学識を授け、専攻分野における研究能力並びに高度の能力を養うとともに、広く国際的な人材を養成すること」を目的としている(大学院学則第2条)。
 本大学院の目的を達成するため、本研究科は、@「高度の専門的な職業人の養成」、A「沖縄県の文化事業推進のための人材育成と地域の活性化」、B「教育研究の国際化推進」、C「生涯学習時代における学習機会の提供」、D「地域研究の一層の推進」の5項目を掲げ、その実現のため鋭意努力している。

【点検・評価】
 本研究科が開設されて以来7年が経過した。入学者の半数近くが社会人・有職者であり、社会人の再教育または生涯教育の観点からみると、本研究科の努力目標は達成されつつある。また、修了後は教職あるいは地方自治体、地域の文化活動に従事することを希望する者が多く、将来「専門的な職業人」としての役割を果たすものと期待される。

【改善・改革方策】
 教育研究の国際化推進の点では、現在までの取り組みは十分とはいえない。本研究科開設以来、内部の充実と新しい専攻(英米言語文化専攻1999年開設、人間福祉専攻2003年開設)の増設作業に忙殺され、教育研究の国際化に向けての努力は十分にはなされなかったというのが実情である。基礎とする総合文化学部の専門分野をすべてカバ−するようになった現在、本研究科は教育研究の国際化推進のための具体的検討を開始する。2004年度の研究科会の重要事項とする。

(a) 南島文化専攻
【現 状】
 地域文化研究科南島文化専攻は、総合文化学部の前身である文学部国文学科及び社会学科を基礎として、1997年度開設された。本学はもちろん県内私大最初の大学院である。
 基礎となる国文学科及び社会学科は、南島を中心とする文化・社会の教育研究において努力を重ね、高い評価を得てきた。その経験を基盤として、琉球・沖縄の地域を核としつつ、日本、東アジア、東南アジアをも視野に収めて、言語文化領域、民俗文化領域、南島先史・歴史文化領域、社会文化領域の4領域を設定し、学問領域を越えた学際的な地域研究の発展を理念・目的としている。
 教育目標としては、地域における教育・文化にかかわる高度の専門性をもつ人材の育成である。専修免許取得を目的とした教員の再教育、高度の専門性を持つ学芸員の養成、地方誌編纂や平和教育などの文化事業のリーダー養成そして生涯教育への対応などが具体的な教育目標となっている。

【点検・評価】
 本専攻には4領域あるが、それぞれの領域の専門に偏らないように、他領域専門科目から2科目以上の履修が義務づけられている。そのため、教員と院生、また院生と院生の間で領域を越えた交流があり、学際的地域教育研究は実質的に実行されている。
 本専攻に入学した院生の大部分は有職者であり、社会人の再教育あるいは生涯教育という本専攻の教育目標と現実は合致している。修了後も、教職あるいは地方自治体、地域の文化活動に従事する者が多く、概ね目標に添った教育が行なわれている。

【改善・改革方策】
 本専攻が開設されてから、7年が経過する。カリキュラム等も若干の改編があり、担当教員も入れ替えがある。基本的な理念・目的・教育目標については堅持しつつ、カリキュラムなど総合的に再検討することが必要だと思われる。しかし、現在のところ、再検討の時期については確定してないが、2004年度には研究科会において本格的に検討する。

(b) 英米言語文化専攻
【現 状】
 英米言語文化専攻(以下「本専攻」という。)は、地域文化研究科の一専攻として1999(平成11)年に開設され、今年で5年になる。本専攻は、英米文学、英語学・言語学研究を中心とする英米言語文化領域と、わが国における英語教育の充実・発展を期して研究を進める英語教育学領域の2領域からなる。募集定員は3名、収容定員は6名である。講義担当教員は、2003(平成15)年度現在、兼担教員10名、兼任教員6名、合計16名である。学部英文学科(2000年度に英米言語文化学科に改称)の教育理念、「国際化・情報化時代を迎え、政治・経済・文化等のあらゆる分野においてボーダーレス時代が進行している状況に鑑み、国際語としての英語と国際感覚を身につけ、グローバルな視野をもち、人類の平和と地球環境の保全のため積極的に貢献する、教養豊かな国際人としての有為な人材の育成を目指す」ことに立脚し、一層その理念を実現し、21世紀の沖縄を背負う人材の育成、国際的に活躍する高度の専門的知識を有する職業人の育成を目指している。
 具体的には次の8項目の目標を掲げ、地域の人材の発掘と養成に最大の努力を払っている。
  @沖縄県の人材育成事業の一翼を担い、国際化に対応できる人材の育成
  A高度で継続的な専門知識を提供し、高度の専門的な職業人の育成
  B現職教員等の再教育、専修免許提供による中・高校教育の活性化のための人材育成
  C文化的教養と国際的感覚を備えた地域リーダーの育成
  D文化事業推進による地域活性化のための人材育成  
  E教育研究の国際化推進を図る人材の育成      
  F生涯学習時代における学習機会の提供による生涯学習推進のための人材育成  
  G英米言語文化研究を一層推進する人材の育成    

【点検・評価】
 2002(平成14)年度までに7名の修了者しかなく、しかも全員が20歳代のため上記8項目の努力目標のいくつが達成されつつあるか明確には言えないが、修了者は中高校の教員を希望しており、将来その分野においてリーダー的役割を果たすものと期待される。

【改善・改革方策】
 社会人の入学者の場合は、職場が多忙のため時間的な余裕がなく大学院生活との両立に困難を感じている者が少なくない。専攻としては、とくに、中学、高校の教育現場の現状を把握し、入学者への理解と協力を得る方策を講じなけれならない。 

(c) 人間福祉専攻
【現 状】
 人間福祉専攻の教育理念は21世紀の国際化、高度情報化、少子高齢化などの社会的変革の中で、社会や家庭、学校等における人間関係に大きな変化を及ぼすと予想される社会福祉及び臨床心理学のそれぞれの専門性を尊重しつつ、特に沖縄という地域に立脚し、福祉・心理・保健・医療の各分野について相互に関連をもたせながら総合的に教育することにある。そして、理論的知識を基礎にして、現場を重視した実践的教育を行うことを目的にしており、さらに人間福祉専攻では、社会福祉学領域と臨床心理学領域のそれぞれの専門性を深めながら、この二つの領域を関連させ、地域の問題に対処していくための幅広い知見を身につけることを目標にしている。

【点検・評価】
 人間福祉専攻は、平成15年4月に開設されたばかりであるが、人間福祉専攻のカリキュラムは二つの領域の専門性を深めながら、二つの領域を関連づけられるように編成されているため、本領域の教育目標を達成することは可能であると考えられる。

【改善・改革方策】
 今後とも本専攻の理念・目的・目標の浸透、実現に努める。そして、完成年度後において、浮かび上がってくる課題をふまえながら本専攻の理念・目的・目標を不断に精査して充実に努める。



(2) 地域産業研究科

【現 状】
 地域産業研究科地域産業専攻(以下「本研究科」という。)は、1998(平成10)年に開設された。
 本研究科は、現在沖縄県が産業振興を促進する上で直面している具体的な課題に実践的に対処するための人材育成と、研究の一つの拠点を形成することを設置の理念としており、具体的には、@自らの専門性と複合知識を実社会において体現し地域産業振興の原動力となり得る高度の専門的職業人の養成と、A経済学・経営学・商学・会計学等の分野の有機的連携に基づく研究活動の一層の促進、を目的としている。従って、教育の目標は、企業・行政等の実務現場で中核的な役割を担える人材を養成することである。
 これらの理念・目的を踏まえて、本研究科では、「応用計量経済」、「沖縄経済」、「産業組織」、「地域流通」、「日本的経営」、そして、「会計」の6つの教育研究領域を設定し、沖縄県が直面している具体的な課題に対処すべく教育研究に取り組んでいる。
 ここで、「沖縄県が直面している具体的な課題」とは、@情報化に対応した数量的・客観的な情報の収集・分析、A歴史的・地理的特質を有する沖縄県の経済構造、B第3次産業に傾斜した産業構造、C地理的に限定された地域市場圏、D経営規模の零細性、経営管理の現代化、そしてE情報化に対応した経営財務管理体制の整備であり、@の課題に対しては「応用計量経済」領域、Aの課題に対しては「沖縄経済」領域、Bの課題に対しては「産業組織」領域、Cの課題に対しては「地域流通」領域、Dの課題に対しては「日本的経営」領域、Eの課題に対しては「会計」領域、がそれぞれ対応している。
 本研究科が目標とする教育研究を効果的かつ効率的に推進するためには、経済学・経営学・商学・会計学等の分野に属する広範な教育研究領域を包含し、それらの教育研究領域の有機的な連携を保ちながら、複眼的な視点に立って、教育研究を進めることが肝要である。そこで、本研究科では、上述の6つの研究領域の有機的な連携を確保するという観点から、経済学科及び商学科という学部における縦割的な学科の壁を排除し、小規模ながら学際的な教育研究領域を形成し、沖縄県の産業振興に資するために一体的な教育研究を進めている。

【点検・評価】
 沖縄県は、歴史的・地理的特殊性に起因する脆弱な経済基盤や偏った産業構造という地域に固有の課題に直面する中で、年来の懸案である経済の自立化を目指し、県内産業の振興を図ろうとしている。従って、上述した本研究科の理念・目的・教育目標とそれに伴う人材養成等の目的は地域振興という基本命題と合致しており、かつ本研究科設置以来4年しか経過していないので、当面は、現行の理念・目的・教育目標を堅持したいと考えている。
 
【改善・改革方策】
 本研究科の基礎となっている商経学部は、2004年4月より、経済学部と産業情報学部の2学部に改組される計画である。このため、本研究科としての理念・目的・教育目標については、改めて専攻名の変更や専攻の増設並びにそれらの是非も含めて検討する必要が生じている。
 本年10月以降、本研究科会において基本的方向を定め、本学の財政と教学環境を勘案しながら、具体的な検討作業を行い、必要な場合には所要の手続きを行いたいと考えている。



(3) 法学研究科
 沖縄県は、日本復帰したとはいえ、今なお在日米軍基地の75%を抱え、そこから派生する米軍人の犯罪、事故をはじめ、基地の存在が政治、経済、社会、法律、教育、環境などに与える影響は大きく、県民にとって大きな負担となっている。日本復帰30年後の今日も県民所得は本土の約70%しかないという事実は、法的、経済的問題が山積しており、他府県より厳しい状況下に置かれていることを意味する。
 法学研究科の教育理念は、沖縄県という特殊な地域において必要とされる法律学の研究・教育を一層推進し、自由で公正な地域社会の発展に貢献できる深い見識と視野を身に付けた高度な法律専門家の養成を目指すことである。それを、さらに具体的に言えば、官公庁と民間における各種団体・組織・研究機関等の、指導的立場に立つ将来のリーダーを養成するという観点から、21世紀の高度かつ多様化する社会の高度な法律専門家に必要とされる柔軟で創造的な法的思考力、また法的問題の発見・解決能力、さらに、これを支える広い視野と深い洞察力を備えた人材の養成をめざすことを目的とし、目標としていることである。
 本研究科は、平成15年4月に開設されたばかりであるから、その理念・目的・教育目標についての点検・評価は時期尚早であると考える。むしろこれらを達成するため、目下、鋭意努力しているところである。2年後の完成年度には、これらのことはほぼ実現しているものと思われる。