10月18日(土)、講堂兼体育館で本学主催による国際シンポジウム「グローバリゼーションの中の沖縄」が開催されました。今回のシンポジウムでは、基調講演者としてアメリカから平恒次イリノイ大学名誉教授をお招きし、また、各セッションにおける報告者・パネリストに北朝鮮問題の専門家・伊豆見元静岡県立大学教授、地元から伊波洋一宜野湾市長、フランスからパトリック・ベイヴェール社会科学高等研究院 日本研究所所長、韓国から池明観翰林大学日本学研究所所長を迎え、グローバリゼーションという新しい視点から沖縄問題を多角的に考察いたしました。当日は、午後1時から6時30分までの長時間にわたるシンポジウムにも関わらず、学生や一般の方など約1000名が参加、各パネリストの熱のこもった主張に耳を傾けました。以下、当日の日程に沿う形で、同シンポジウムの概略をお伝えいたします。
主催者挨拶: 波平勇夫(沖縄国際大学・学長)

 総合司会の西平功常務理事による開会挨拶に続き、波平勇夫学長が登壇し、シンポジウムの開催に尽力された関係者の方々へ感謝の言葉を述べるとともに「沖縄国際大学は、2002年2月に創立30周年を迎えました。これは沖縄の日本復帰30周年、また奄美群島の日本復帰50周年とも重なります。このような内外の大きな節目に戦後沖縄が抱えてきた問題を国際レベルで検討し、地域問題に内在する普遍的側面を世界に発信するため、このシンポジウムを企画しました。今回のシンポジウムが長期的視野で戦後の沖縄問題を検討する機会になることを期待します」と主催者挨拶をしました。
問題提起:「グローバリゼーションの中の沖縄」波平勇夫

 主催者挨拶に引き続き、波平学長は「戦後58年、未解決のまま一貫して沖縄が抱えている問題があります。それは沖縄における米軍基地であり、沖縄住民と米軍基地の関係です。更にもう1つの問題は、米軍基地は沖縄にありながら、その処遇は住民を離れて外部意志に委ねられているということです。これら沖縄問題に関する閉塞状況が続く一方で、グローバリゼーションという世界的システムは新しい世界秩序と表裏をなし、直接・間接に沖縄問題や沖縄を含む地域安全保障にインパクトを及ぼしつつあります。このグローバリゼーションの観点から考察した場合、日本と米国との二国関係で合意された沖縄の米軍基地は、その意義を見直す必要があるのではないでしょうか」と問題提起しました。
基調講演:「グローバリゼーション、世界秩序、そして人権 −沖縄の行方を考える−」
                        平 恒次(イリノイ大学名誉教授)

 基調講演の平恒次教授は、経済的グローバリゼーションと世界秩序(政治)とを構造的機能に分けた上で、国民国家主義を基調とする今日の国際政治と、他方ではパックス・アメリカーナ体制に支えられた今日の世界秩序に基づく現実的な国際秩序の立場から沖縄問題を分析。沖縄の歴史が常に他律的に決定され、沖縄県民の主体性(自決権)がないがしろにされてきたことについて、国際人権規約の活用を提案し「国際人権規約では全ての『ピープル』は自決の権利を有すると規定されています。沖縄の人々が『ピープル』である限り、自決権は失われない。グローバリゼーションや世界秩序の変動の中にあって、自決権を主体的に行使するため、沖縄の人々は『ピープル』としての自己認識を維持し続ける必要がある」と講演しました。
第1セッション「地域から安全保障を考える」
 基調講演に続く第1セッションでは、本学・法学部の佐藤学教授による司会のもと、伊豆見元教授と伊波洋一市長が報告を行いました。
報告「沖縄の米軍基地の行方 −普天間飛行場返還問題を通して−」 伊波洋一(宜野湾市長)
伊波市長は、普天間飛行場返還要求を政策に掲げて推進する立場から、沖縄における米軍基地の成り立ち・現状と課題・普天間飛行場問題・返還後の跡地利用計画等について言及するとともに、米国の海外基地再編との関連で在沖米軍基地の将来を予測。「現在進行中の普天間飛行場返還作業は16年後の返還。跡地利用をスムーズに進めるためにも5年以内の返還を求めていかなければならない。そして、基地に依存しない新しい視点で将来を切り開くべきだ」と報告しました。
第2セッション「安全保障から地域を考える」
 続く第2セッションでは、本学・商経学部の野崎四郎教授による司会のもと、パトリック・ベイヴェール所長と池明観教授が報告を行いました。
報告「EUの視点からみた沖縄のカルチュラル・アイデンティティと自立性」
パトリック・ベイヴェール
(フランス国立科学研究センター研究主任・社会科学高等研究院 日本研究所所長)

ベイヴェール所長は、沖縄の文化的アイデンティティの概念と、そこに内在する政治的影響の関連をヨーロッパの観点から考察。「沖縄の歴史・文化の特異性は、政治的自立を目指す沖縄県民へ確実に強い論拠を与えるが、これらが沖縄の将来を先験的に決定することはない。しかし、在沖米軍基地の縮小は、沖縄の政治家が県民の支持を得ながらワシントンや東京への圧力を緩めることなく維持し続けるならば不可能ではなく、国際舞台、特にヨーロッパで沖縄をよりよく紹介することは、軍事基地縮小の動きを強めることにつながる」と報告しました。
報告「東アジアの安全保障と韓国 −沖縄はどう捉えられているか−」
                      池 明観(翰林大学日本学研究所所長)

 韓国・北朝鮮そして日本の戦後政治を一貫して研究され、時には抵抗運動とも関わり、また或る時は韓国の国家政策立案に参画された池明観教授は、沖縄の現状を世界の縮図として捉えるとともに、北朝鮮を訪問した実体験から今後の東アジアの安全保障について率直な見解を表明。「東アジアの政治は最大の危機を迎えていると思えてならない。沖縄の状況の不透明な姿が今や全アジア、全世界に拡大しているように見える。ただ、どのような危機が来ようと、東アジアが再び戦場と化することのないように念じながら、いっそう市民的交流につとめ、この危機についての憂いを共にすることが必要なのではないだろうか」と提案しました。
第3セッション「全体討論/パネルディスカッション」
 第3セッションでは、波平学長と総合文化学部の大城朋子教授によるコーディネートの下、平恒次教授・伊豆見教授・伊波市長・ベイヴェール所長・池明観教授とセッション司会の佐藤教授・野崎教授をパネリストに、パネルディスカッションと全体討論が行われました。ディスカッションの中で、平教授は「道州制の導入と市町村合併が進めば、沖縄県という枠組みがなくなる可能性もある。その時に他律的でない、自らのアイデンティティが重要になる」と発言、他のパネリストの方々も各自の報告に関する補足説明とパネリスト同士の討論を行った後、フロアからの質問へ応じ、議論を深めました。全体討論の結びとして、波平学長は「今回、世界秩序・安全保障・他律・自律などの問題について、様々な報告と提案がなされました。この沖縄からの問題提起は、普遍的な課題として、世界に発信できるのではないかと考えます」と総括しました。

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