沖縄国際大学 平成16年度 点検・評価報告書

本   章

第10章 社会貢献

 第1節 大学の社会貢献

 第2節 学部の社会貢献
  (1)法学部   (2)商経学部   (3)総合文化学部

 第3節 大学院の社会貢献





第1節 大学の社会貢献
【現 状】
 本学は、昭和47年、沖縄の日本復帰措置の一環として旧沖縄大学と旧国際大学が統合して開学したが、寄付行為において「沖縄における私立大学」と明記されるほど、地元と密着した大学としての位置づけがなされていた。さらに、大学用地の取得に当って、地元住民が全面的に協力し、また学生のほとんど全員が地元出身の学生で占められていた。このように、本学は開学当初から地域との結びつきがことさら強く、大学の基本的使命を教育・研究とし、社会貢献は従属的だとする一般的な見方とは異なり、設立当初から教育・研究・社会貢献の三つは不可分の鼎立的関係にあるとの認識が出来上がっていた。それは、大学のモットーである、「地域に根ざし地域に貢献する大学」、「地域に根ざし世界に開かれた大学」の中にもはっきりと示されている。ただ、大学の草創期には、復帰の混乱の中を大量の学生が押しかけ、「教育することが地域社会に対する最大の貢献である」、との状態が続いた。
 しかし、昭和52年、第一回公開講座委員会が開催されたのを契機として、本学は地域に貢献する大学として、大学拡張・大学開放の分野に本格に取り組むこととなった。その結果、大学や研究所が定期的に公開講座を開催し、図書館、教室、運動場、体育館などの施設の開放が積極的に行われ、地方自治体・行政機関への協力体制(村誌編纂、各種の行政委員等)も定着した。平成3年、公開講座の所管が教学課から新設の広報課に移管され、規定に従って公開講座委員会が発足し、それに伴って公開講座の大幅な見直しが行われることになったが、現在の公開講座は概ねその時に原型が出来上がった。
 本学は文科系の大学であり、医療系、産業系、農学系、工業系機関との連携はほとんど行われてこなかった。いわゆる産学共同プロジェクトとか技術移転の必要性もこれまでのところ実質的に皆無に近い状態である。ただ、地方自治体とか一部の企業体とは現在でも顧問的な役割で参加している事例があり、本章においても、この部分について、地方自治体・行政機関への参加という分野の中で扱うこととする。
 従って、本章で述べる本学の社会貢献とは公開講座をはじめとする類似の分野を指している。しかしこれらの分野も様々で、大別すると、(1) 学内定例講座の実施、(2) 集中講座の実施、(3) 学外講座の実施、(4) 講演会の実施、(5) 研究所による開放・公開講座の実施、(6) 公開科目の実施、(7) 司書講習(文部科学大臣委嘱)の実施、(8) 沖縄県広域学習サービス事業リカレントコースの実施、(9) 地方自治体・行政機関への協力、(10) 学外機関への調査研究の協力、(11) 地域に対する施設(図書館、教室、運動場、体育館など)の開放、など11種類に分類することが出来る。以上の11種は、継続的、組織的に行われているもので、大学もその内容を充分に把握しているものであるが、本学の学生・教職員の中には、本学の名前を使って様々な無償のボランティア活動(例えば、施設への慰問・施設でのカウンセリングや慰問、施設の清掃、スポーツ大会の運営・審判・選手、社会教育施設の運営・講師、企業コンサルティングなど)を行う者も多く、これらの非公式の社会貢献については、正確な数字を掴むことは困難である。ただ、公式、非公式を問わず、あらゆる分野で専門家が不足し、またインテリジェント・ビルディングとも呼ぶべき知的施設も少ない沖縄にあっては、専門家集団としての大学教員と多様な機能を備えた本学施設の魅力は大きく、地域から寄せられる期待感も強い。その結果、本学の社会貢献は地域住民の生活と密着した、広範囲なものにまたがっている。以下、上記の11分野について、順を追って、その内容を説明することにしたい。

@ 学内定例講座
 学内定例講座とは、公開講座委員会が年度のテーマを決定し、それに沿って10〜12のサブテーマを設定し、およそ半年かけて開催される無料の連続講座のことである。講座の名称が示すように、学内での開催を基本とするが、最後の4回には、平成13年の本学の創立30周年を記念して、本学の後援会年次支部総会の開催地である久米島、宮古島、石垣島、名護市で行われるようになった。いわゆる出張講座である。因みに、平成14年度のメインテーマは「自治の挑戦―これからの地域と行政―」で、受講者の総数は619名であった。また特筆すべきは、平成5年の学内定例講座から、その年度の講座内容を一冊の本にまとめ、全国を対象に出版していることである。平成14年度の学内定例講座の内容も、平成15年3月、『沖縄国際大学公開講座12 自治の挑戦―これからの地域と行政―』というタイトルで、すでに出版されている。

A 集中講座
 集中講座とは、大学側の休暇を利用して8月から9月にかけて、学内及び学外において、7時間〜15時間の時間で行われる有料(安価)の講座のことである。この講座では各教員から提供可能なテーマを募り、それに基づき公開講座委員会が一般に向けて講座を企画・提供するという方法を取っている。また受講者からの要望で開講する場合もある。このような柔軟な設定は、本講座の運営が独立採算を原則とし、需要と供給の変化という市場原理を採り入れているからである。平成14年度は、沖縄に関する6講座、英語に関するもの3講座、「人間」と日本語に関するもの各1講座など、合計11講座が開講され、合計225名が受講した。集中講座の運営は平成15年4月、新設のエクステンションセンターに移管された。

B 学外講座
 学外講座とは、本学の教員を学外に派遣して行う無料の出前講座のことで、市町村役場、教育委員会、図書館、公民館などと共催して本学が実施するものである。実施方法は、先ず本学公開講座委員会が各教員から提供可能なテーマを募り、次いでそれをリストにして離島を含めた県内の市町村教育委員会に送付し、それを見た関係者が本学に希望する時期とテーマを通知するというやり方である。リストの中に希望するテーマや講師がない場合は、直接本学の公開講座委員会にその旨を通知してもらい、それを受けた公開講座委員会は要望が実現するよう直接教員と交渉する。講座は講演会、座談会、ワークショップ、現地調査、巡察など、多様な形式で実施される。平成14年度は、14の団体と共催し、「情報公開及び個人情報保護条例」、「市町村合併の現状と課題」、「昔話と心の教育」、「第一尚氏王統時代の史跡巡り」などのテーマで開催され、合計815名が受講した。他に知的障害者のための特別講座も実施した。

C 講演会
 講演会とは、公開講座委員会が主催する単発の無料講演会のことを言う。講師は本学や沖縄県を訪問している高名な学者や実践家などであるが、公開講座委員会の企画とは別に、大学が独自で記念シンポジウムなどを開催することもある。平成14年度の講演会は、オーストラリア人のジル・ジョーダン氏が「個人のライフスタイルとコミュニティーの自立」という演題で講演し、225名が受講した。その内容は、平成15年3月、『沖国大ブックレットNo.11 個人のライフスタイルとコミュニティーの自立』(Individual Life-Style and Community Self-Reliance)という本にまとめられて出版されている。平成13年度は本学の創立30周年の年であったが、その記念行事の一環として、大学が主催して沖縄国際大学創立30周年記念シンポジウムも開催された。その内容も、平成15年3月、『沖国大ブックレトNo.10 21世紀における大学教育』、というタイトルで出版されている。

D 研究所による公開講座
 研究所による公開講座とは、本学で行われる専門的な研究会や調査報告会を一般市民に開放する講座と、それとは別に、研究所が市民を対象に独自に開催する公開講座とがある。どちらの場合も、公開講座委員会が主催する公開講座とはやや趣を異にした学術的な公開講座となっている。一番歴史の古い南島文化研究(昭和53年設立)の場合、平成14年度にシマ研究会が7回開催され、その全てにメディアを通じて広く一般に参加を呼びかけ、事実多くの市民が参加した。同様に、沖縄近世史研究会(2回開催)、石垣島調査報告会(石垣市で開催)、南島文化市民講座(宜野湾市民会館ホールで開催)、韓国全南大学校湖南文化研究所共同シンポジウムも開催され、これらにも多数の聴衆が集まった。産業総合研究所(平成3年設立)でも独自の公開講座を主催している。例えば、平成14年度に本学で開催された7回に及ぶ研究会はメディアを通じて広く一般に宣伝された。また専ら市民を対象とする恒例のフォーラムも本学で開催され、230名が参加した。沖縄法政研究所(平成9年設立)も他の研究所と同様、公開講座を主催している。例えば、平成14年に4回開催された研究会はすべて市民にも開放され、また市民を対象にフォーラム(石垣市市民会館ホール)も開催された。

E 公開科目
 公開科目とは、公開講座の一環として本学の正規授業(実習、演習、健康・スポーツ科目、情報科学科目の一部を除く)を市民に公開するもので、平成8年、9科目の公開科目でスタートした。これと類似するものに科目等履修生制度があるが、これは科目の単位を取得することが目的で、受講料も2単位46,000円と高額である。公開科目は大学が市民に公開する科目で、受講料も1科目9,000〜18,000円と格安で、受講条件も大幅に緩和されている。平成14年度は約500科目が公開され、79名の市民が60科目を受講した。

F 司書講習の実施
 司書講習(文部科学大臣委嘱)とは、図書館法、学校図書館法及び学校図書館司書教諭講習規程を受けて、文部科学大臣が全国の特定の大学に委嘱して行う講習のことで、本学では資格の取得を希望する社会人を対象に、平成8年度から学校図書館司書教諭講習を毎年、図書館司書講習を隔年ごと実施している。本学で実施される以前は、資格取得希望者は他県にまで出向かなければならず、膨大な費用と時間を強いられていた。平成14年度は135名の社会人が学校図書館司書教諭講習を88名が図書館司書を受講した。因みに、本学の学生で資格を希望する者に対しては、本学で開設されている「図書館司書及び学校図書館司書教諭資格取得のための課程」を、通常の授業時間帯で履修することが義務づけられている。

G 沖縄県広域学習サービス事業リカレントコースの実施
 沖縄県広域学習サービス事業リカレントコースとは、沖縄県教育委員会からの委託を受けて、本学が企画・実施する事業のことで、平成10年度に開始された。受講者は専ら一般成人が対象となっており、受講料も無料である。実施形態は、一回2時間の10回連続講座で、一週間など一定の間隔をおいて10回実施する方法と、連続して10日間行う方法とがある。実施機関は平成14年度までは公開講座委員会であったが、平成15年度からは開所したばかりのエクステンションセンターに移管された。平成14年度の実施状況は、7月22日から8月2日までの、土日を除いた毎日、<「市民の視点」から見た法と政治>という講師7名による連続講座が開講され、34名が受講した。エクステンションセンターは、現在(平成15年)のところ、在学生のための対策講座や資格講座などを開講していて、このリカレント講座と前述の集中講座の二つだけが社会人講座である。将来は規模を広げ、公開講座委員会の講座と棲み分けながら、多様な市民講座を開講する計画である。

H 地方自治体、行政機関への協力
 地方自治体、行政機関への協力とは、県や自治体の要請を受けて、本学の教員が県や自治体の審議会、評議会、委員会、協議会、懇話会、面接委員会、実行委員会、策定委員会、試験委員会などの委員となり、様々な知識、技術、見識、経験などを提供することである。専門家や学識経験者が少ない沖縄にあっては、その貢献は計り知れないものがある。平成14年度は、大学に正式に要請のあった分だけで、37名の本学教員が80の委員会等に委員として委嘱され、その任務を全うしている。

I 学外機関への調査研究協力
 学外機関への調査研究協力とは、国、県、地方自治体などからの要請を受けて、本学の教員が調査研究に参加するというもので、平成14年度は、沖縄県教育委員会からの委託を受けて、3名の教員が個別に3件の調査研究を行った。このタイプの協力要請は年度によって変動があり、10件以上の年もあれば、昨年度のように3件という少ない年度もある。

J 地域に対する施設の開放
 地域に対する施設(図書館、教室、運動場、体育館など)の開放とは、大学の教学運営に支障のない範囲で大学が市民に大学の施設を開放し、市民の便宜を図るというものである。平成10年10月に開館した本学の新図書館は、約30万冊の蔵書、約5千点の視聴覚資料、2千点余の雑誌、多目的ホールなどを有し、当初から「広く地域社会に開放し、生涯学習センターとしての役割」を担う旨、地域への貢献を明言していた。現在の開館時間は平日で午後11時まで、週末で午後10時まで(日曜日は午後6時まで)、休暇中は午後9時までとなっているが、その時間帯に社会人の入館を許可し、その一部の人には書籍の館外貸出しも行っている。平成14年度の社会人の延べ利用者数は80,499名であり、地域の図書館という様相も呈してきている。また教室棟は、授業のない休日・祝祭日に学外団体に使用させている。例年、沖縄県人事委員会、同建築士会、同宅地建物取引業協会、地方自治体、国家資格試験(調理師、製菓衛生士、消防設備士など)などが、受験者数約600名〜1,500名規模の採用・資格試験会場として教室を使用している。平成14年度の教室利用件数は70件で、利用した受験者数は約10,000名に及んでいる。教室の使用は無料というわけではないが、社会貢献を標榜して本学はその使用料を低額に抑え、主催者の便宜に供している。さらに運動場は、社会人野球、社会人サッカー、自治会の運動会、グラウンドゴルフ大会などに開放し、体育館もマーチングバンド、競技選手権大会のリハーサルや開催に利用させている。

【点検・評価】
 このように、本学の理念・目標の中に明確に位置づけられた社会貢献は、現に多様な活動を展開し、それに対する社会の評価も得ているところから、高い評価を与えることができる。特に公開講座の分野では、公開講座委員会と3研究所がそれぞれ独自の公開講座を組織的に運営し、学術的講座と啓蒙的講座という種類の異なる内容をもつ講座を開催している。研究所の講座は公開講座委員会の講座が少ない先島地域にまでその範囲を広げている。またその一方で、3研究所は専ら学術的な研究会を市民に開放し、学究的な市民の高い要求に応えている。自治体や行政機関における本学教員の貢献も献身的で、表彰される事例も少なくない。施設の開放は、施設の充実や本学の持つ立地条件だけでは説明できない、本学の真摯な態度を学外に示したものということが出来る。また文部科学省からの委託事業についても、そういう委託に応えることの出来る本学の貢献能力の高さを示している。さらに、エクステンションセンターの設置も将来の礎を据えたということで、本学の積極性を表明しているものである。

【改革・改善方策】
 しかしながら、本学の社会貢献は未だ本学とその周辺地域の住民に対するものが圧倒的であり、沖縄本島の北部、離島などが手薄となっている。過去に放送教育開発センターと共同して、地元放送局のラジオとテレビを通じ、それぞれ大学公開講座を実施したことがあるが、本学の単独事業としてそのことが可能かどうか今後検討していく。同時に、インターネットを利用した遠隔講座の可能性も検討する。また遠隔地の住民に対しては、本学が巡回講座を開催するとか、バスなどをチャーターして直接本学に来てもらう方法も検討課題である。公開講座のテーマに関しては、現行の学内定例講座に加えて、突発的な出来事で世間の耳目を集めている問題(例えば、北朝鮮による日本人拉致、幼児誘拐、セクハラ、SARSなど)があれば、即座に対応できる体制の確立を検討する。組織に関しては、平成15年4月に設置されたエクステンションセンターの事業内容をさらに明確にし、有料講座をすべてセンターで一本化することも考えられる。例えば、現在センターが開催している沖縄県広域学習サービス事業リカレントコースを公開講座委員会へ移すことも今後検討していく。センターは、将来、現在学生を対象に開講している対策講座や資格講座ばかりでなく、市民のために有料の職場研修講座、資格取得講座、外国語講座などを開講することも検討していく。


第2節 学部の社会貢献
(1) 法学部
【現 状】
 地域に根ざした大学づくりをめざす法学部は、他学部と同様、平成8年度から、大学の公開化というコンセプトをさらに推進するために、正規授業科目の一部を社会人に公開してきた。法学部は、演習、実習科目等の一部を除いた正規授業(専門科目)の約55科目(うち、通年専門科目15科目、前期専門科目40科目)を一般社会人に提供している。平成15年5月1日現在で、法学部の通年専門科目1科目(地方自治法)と前期専門科目1科目(家族法)に、社会人の学外受講者がいる。地域社会との恒常的な学術文化交流を目的とした教育システムの一つとして評価すべきである。
 また、法学部に付置された沖縄法政研究所による無料法律相談も地域との法文化交流の一つにあげられる。沖縄法政研究所それ自体は、本来、沖縄県に特有な法律的・政治的な諸問題を調査・研究する場として設けられたものであるが、本土復帰以来約30年を経過したとはいえ、戦後数27年続いた米軍支配のゆえに、日本法が施行されていなかったことによる日本法に関する法学教育の空白期間が長く、その結果、県民全体の法意識は、潜在的には他府県のそれよりも低いものと言わざるをえず、市民間における法律紛争が多数生ずるに至っており、そのような法律問題の相談に実定法の専任教員や学外の特別研究員(元裁判官)などが無料で応じている。現在、この沖縄法政研究所による無料法律相談は、相当周知されるに至っており、市民や在学生などが利用している。
 次に、法学部や沖縄法政研究所や本学広報課の主催する公開講演会や講座が、地域社会への貢献の一つとしてあげられる。通常無料で行われるこのような公開講演・講座には、法学部教員の多くが講師として参加している。平成14年度には、「自治の挑戦一これからの地域と行政一」をテーマに12回開催し、いろいろな視点から沖縄における自治と行政の課題を学問的に論ずるに至った。また、久米島、宮古、石垣、名護市での出張講座も行われている。平成15年度においては、沖縄法政研究所主催のフォーラムが1回開催され、l14名の受講者を集めている。これ以外にも、法学部主催の学外講師による講演会が行われており、国内でも著名な学者や文化人が、本学において学問水準の高い講演を行っている。
 その他、平成15年10月には、法学部の小西助教授が受け入れの中心となって、「科学的根拠にもとづく犯罪・非行対策」を統一テーマとする日本犯罪社会学会第30回全国大会が本学で二日間開かれ、全国から約200名の会員が参加する予定である。

【点検・評価】
 法学部教員が法政研究所で行なっている無料法律相談は、所得水準が低いことにより弁護士に相談できない市民や、どのようにして複雑な法律紛争を解決すべきかその手段がよく分からない人、あるいは同様な悩みを有している学生達に問題解決のための適切な助言や協力を行っており、発足当初こそ相談件数は少なかったものの、今日では、相当周知されており、かなり遠方の市民からも相談が寄せられるに至っている。この点において、法政研究所が実施する無料法律相談は、市民や学生が直面する法律紛争の解決に大いに役立っていると同時に、市民や学生の法意識の向上に貢献していると評価できる。
 法学部や法政研究所が主催する無料の公開講座は、毎年、市民や学生に対して法律的・政治的な知識や話題を提供しており、とくに、本島北部地域や宮古、八重山地域のような遠隔の地にあっては、市民に高度な学習を提供する場として大いに歓迎されている。この意味において、法学部が地域の教育・学問水準の向上に貢献しているものと評価できる。

【改善・改革方策】
 法政研究所の行なう無料法律相談が地域社会に大いに貢献しているとはいっても、そこには相談担当者の質と量の問題があり、実定法を担当する法学部教授の高齢化の問題、教授数の不足の問題が生じてくるであろう。それゆえ、法学部においては、早急に後継教授の育成や外部からの弁護士等法律専門家の導入をはかるべきであろう。
 法学部が主催する公開講座について、今後は、毎年5月3日の憲法記念日に市民や高校生また場合によってはアメリカ人を巻き込んでシンポジウムを開いたり、「私の憲法観」や「私と日本国憲法」等をテーマにした中学生、高校生の意見発表会を開いたり、また法律や政治に関する時事的テーマの論文を広く地域の市民や高校生や大学生から募集したりするなど、地域の法律的・政治的文化水準の向上にもっと貢献すべきである。法学部の社会貢献を今以上に発展・向上させるためには、本法学部の教員のみが中心となって講演を担当するのではなく、県外及び海外などからも著名な学者や文化人を招くべきであり、そのための十分な予算措置を講じるべきである。


(2) 商経学部
【現 状】
 生涯学習機会の提供という面での本学部専任教員による活動状況については、第3章第2節第1項第9号「生涯学習への対応」において記述しているので、ここでは、学会及び国・地方公共団体等の審議会・委員会・研究会における活動状況について記述する。
 本学部専任教員が過去5年間の学会及び国・地方公共団体等公的機関の審議会・委員会・研究会における活動状況(1998年度から2002年度の間に当該職にあった場合及び2003年度現在現職にある場合の合算)は次表のとおりである。

区       分
教員数
学会・審議会等の数
全国学会役員・大会開催委員等
9
11
地方学会役員・大会開催委員等
9
15
公的機関の審議会・委員会・研究会等の委員等
15
85
合     計
31
111
(注)一人で全国学会から公的機関の審議会等の委員まで活動している教員がいるため、
    表中の数値は延べ数となっている。

【点検・評価】
 本学部は、「地域に根ざした大学」の一翼を担う組織として、生涯学習機会の提供は地域住民に対する直接的な社会的貢献の機会であり、また、学会役員や審議会委員等は、学術領域の発展や後継者の育成、並びに、地域社会の均衡ある発展のために行う間接的な社会的貢献の機会であると認識しており、ともに本学部に課せられた重要な責務の一環であると考えている。従って、就任承諾等の事務上の手続きは必要であるものの、学会役員や審議会委員等への就任については、教員個々の主体的判断に任せており、実効上、本学部としては何らの制約も行っていない。また、いたずらに学外活動に傾注することによって、学生の指導等教員としての学内活動に支障が生じることを回避するため、特段の奨励措置も講じていない。
 なお、学会役員や審議会委員等に就任する教員においても、教育課程の運営に支障が生じぬよう、また、学生の授業履修上不都合が生じぬよう、十分な配慮と自覚を持ってこれらの職に就任しており、学外での活動が教員としての学内活動に支障を及ぼすような事態は発生していない。

【改善・改革方策】
 現状を改善すべき特段の事由はないと判断している。


(3) 総合文化学部
【現 状】
 総合文化学部としての主体的な社会貢献への取り組みは多くはない。本学の公開講座の一環として学内定例講座がある。2000年度以前の文学部の時代に3回、総合文化学部では1回、本学部でこの講座を担当した。2001年度のテーマは、「沖縄における教育の課題」と称して合計15回の講座を開講し、参加人数は延べ1,096名であった。
 教員個人としては、学会の役員就任あるいは地域の審議会等の委員に委嘱されるという面で社会に対する貢献を行なっている。2002年度は、本学部教員で県市町村の委員会に委嘱された人数は延べ33名、学外講師(大学を除く)延べ24名、会議等の出席依頼延べ23名となっている。
 総合文化学部附置の南島文化研究所は、一貫して地域社会と深く結びついた活動を継続してきた。その内容については、南島文化研究所の項目に記載されている。

【点検・評価】
 本学部は、南島研究を中心とした地域研究に従事する教員が多く、学外における専門委員や講師依頼の多さは、その特色の反映だと考えられる。
 本学部の学生の中に各種ボランティアやNPOなどで活躍している者が多くいる。しかし、大学あるいは学部としてそれをサポートする組織がない。この点に関して、学生のマンパワーを社会に還元するシステムの構築が必要と考える。

【改善・改革方策】
 学内と学外のボランティアの需要・供給のパイプ役として、学内にボランティア・センターを設置する計画がある。総合文化学部人間福祉学科がその中心となっている。現在準備段階で、2004年度にセンターの設置を実現する予定である。大学の社会貢献に対する一つの課題としてボランティア・センターの設置を位置づけ、センターを通した大学の社会貢献を早急に進める必要がある。




第3節 大学院の社会貢献

【現 状】
@ 社会への貢献
 「研究成果の社会への還元状況」の現状は、地域文化研究科では1998年度から学内紀要『地域文化論叢』を年1回発行(発行部数800冊)し、国内の大学・大学院図書館並びに沖縄県内の公共の図書館等に配布し、地域産業研究科では2001年度から学内紀要『地域産業論叢』を地域文化研究科同様に年1回発行(発行部数800冊)し、国内の大学教育・研究機関や沖縄総合事務局、沖縄県、県内市長会、町村会等の行政機関並びに沖縄産業振興公社等県内諸経済団体、大手民間企業等に広く配布している。2002年度末現在での大学院紀要の発行状況は次表のとおりである。

区  分
名       称
発行状況(冊数)
摘   要
学内紀要
沖縄国際大学大学院紀要『地域文化論叢』
年1回(800冊)
5号まで既発行
沖縄国際大学大学院紀要『地域産業論叢』
年1回(800冊)
2号まで既発行
(注)法学研究科については、2003年4月設置のため、まだ、紀要を発行していない。

 両紀要に投稿できる者は、それぞれの研究科に所属する教員や当該研究科の在籍学生(地域文化研究科のみ)及び当該研究科を修了した者となっているが、投稿の現状は『地域文化論叢』では投稿件数16件中10件が学生投稿で、『地域産業論叢』では9件中9件が学生投稿である。両紀要とも教員の投稿が少ない。『地域産業論叢』にあっては教員投稿の実績はない。
 紀要各号への投稿件数の実績は次表の通りである。
 紀要の投稿件数
 
1998年度
1999年度
2000年度
2001年度
2002年度
『地域文化論叢』
第1号
第2号
第3号
第4号
第5号
4(1)
3(2)
3(1)
3(3)
3(3)
『地域産業論叢』—
/
/
/
第1号
第2号
/
/
/
5(5)
4(4)
(注1):( )数は、学生の投稿件数
(注2):法学研究科については、2003年4月設置のため記載なし。  

 その他、研究成果を講演会、シンポジウム等を通しての社会への還元が期待されるが、現在までのところ行っていない。
 「地方自治体等の政策形成への寄与状況」については、1998年度から2002年度の5年間の実績として次表のとおりである。地域文化研究科が17名、地域産業研究科9名、合計26名の教員が国や県、市町村、指導団体等の政策形成に深く関わり年々増加傾向にある。また、大学院全体の教員1人当り寄与件数は、平均2.8件である。
   地方自治体等の政策形成への寄与状況
 
回答者数
1998年度
1999年度
2000年度
2001年度
2002年度
件数
1人当り件数
地域文化研究科
17
17
20
29
38
43
2.5
地域産業研究科
9
15
18
22
25
31
3.4
合  計
26
32
38
51
63
74
2.8

A 企業等との連携
 企業等との連携による寄付講座、寄付研究部門の開設、共同研究、奨学寄付金の受け入れなどは、現状では行われていない。法学研究科では社会貢献の一つとしてインターンシップ制度の導入を予定しているが、他の研究科でも実施していくかは今後の検討課題である。

【点検・評価】
 研究成果の公表等については、大学院担当教員の当該研究科紀要への投稿が少なく、研究科紀要の社会的評価を高めるためにも各研究科所属教員の投稿を奨励すべきである。ところで、教員個別の研究成果の公表等については、学部との兼担ということもあり学部紀要への投稿や、本学の南島文化研究所、産業総合研究所、法政研究所等が発行する紀要、または全国の学会発表、全国学会誌等で個別に行われており、特に論文投稿数が少ないということではない。ただ、研究科学生の研究意識の啓発と大学院の社会貢献ということを考えると、教員の研究科紀要の投稿を促すべきである。また、フォーラム、公開講座、研究会等による社会貢献については、大学院教員のほとんどが所属する学内研究所で実施されており、大学院でも独自に開催すると、種類や回数を増やす結果ともなり得ることから、既存の貢献機会の存在意義を希薄化させる恐れがある。どのような形態で制度の導入・運用を図るべきか、充分な検討が必要である。
 地方自治体等の政策形成への寄与状況については、26名の大学院兼担教員が国や県、市町村、指導団体等の政策形成に深く関わり、しかも1人当り寄与件数は平均2.8件である。沖縄県が日本本土から遠隔地にあり島嶼県という特異性を考慮しても高く評価できる。この自治体等政策形成の寄与に関わる社会貢献は年々増加傾向にあるが、教育活動、研究活動等との調和のとれた活動が必要である。

【改善・改革方策】
 研究成果の社会への還元面では、当面は大学院紀要の内容充実を図ることに努め、研究成果等の公表機会については、既存の各種公表機会の有機的活用を前提に、大学院だけでなく本学全体として、社会的貢献の機会の充実を図るべく検討したい。
 地方自治体等の政策形成等に関わる社会貢献は年々増加傾向にあるが、活動実績のない若干の教員も見られることから、例えば、大学院担当教員のプロフィールや業績等を記載したパンフレットを作成し、地方自治体等に広く広報し、多くの教員が教育活動、研究活動等との調和のとれた活動が展開できるような環境づくりを検討したい。
 インターンシップ制度については導入を前提とするが、法学研究科や学部での実施状況を勘案しながら、その導入形態や運用方法について、なお慎重に検討を進めたい。